カトリック,「軍備優先」に危機感戦後70年,日本の司教団がメッセージ
朝日新聞,磯村健太郎,2015年3月18日05時00分
日本のカトリック教会が,平和の理念を揺るがす政治のあり方に危機感を強めている.司教たちは戦後70年にあたってメッセージを発表,「軍備優先」の姿勢を批判した.なぜ教会は平和を「祈る」だけでなく,政治について発言するのだろうか.
ローマ・カトリック教会は法王を頂点とするピラミッド型の組織.司教は司祭(いわゆる神父)の上位の聖職者だ.日本での最高責任者である司教団16人によるメッセージは2月25日付で出された.
そのなかで,「戦後70年をへて,過去の戦争の記憶が遠いものとなるにつれ,日本が行った植民地支配や侵略戦争の中での人道に反する罪の歴史を書き換え,否定しようとする動きが顕著になってきています」と指摘.さらに,「特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認によって事実上,憲法9条を変え,海外で武力行使できるようにする今の政治の流れと連動しています」と述べている.
文章作成の過程では,沖縄在住の司教の思いが,例えば次の一文に反映された:「日本の中でとくに深刻な問題は,沖縄が今なお本土とは比較にならないほど多くの基地を押しつけられているばかりか,そこに沖縄県民の民意をまったく無視して新基地建設が進められているということです.ここに表れている軍備優先・人間無視の姿勢は平和を築こうとする努力とは決して相容れません」.
司教団は戦後50年と60年の節目にも平和メッセージを出したが,これほど踏み込んではいない.
発表後,ツイッターでは「宗教家は,政治介入をするな!」,「私からするとサヨク運動家にしか見えませんが」といった書き込みも見られた.
草稿づくりから携わった東京教区の幸田和生補佐司教は「本当は,具体的な政策についてあまり発言したくない気持ちもあります.しかし私たちは『これはおかしい』とはっきり言わなければいけないと感じたのです」.当初は8月に発表する予定だった.「政治の動きがあまりにも早いので危機感を持ち,できるだけ早めに,と判断しました.」
昨年来,プロテスタントを含む日本の宗教団体の多くが,集団的自衛権の行使容認を含む閣議決定に反対や危慎の声明を出してきた.ただ,カトリック教会による厳しい批判はまた別の重みがある.
全世界12億の信者を束ねるローマ法王庁は国家間・民族問の対立や紛争に敏感で,ときに仲介役を買って出る.背景には,二度の世界大戦やナチスドイツによるユダヤ人虐殺などの歴史の教訓がある.宗教的な領域に閉じこもってはいけないとの機運が高まり,1962 - 65年の第二バチカン公会議を経て,世俗社会に深くかかわるようになった.最近では米国とキューバの「和解」に向けて大きな役割を果たした.
それぞれの国の課題に関する基本姿勢は,各司教団に任されている.今回のメッセージは「安倍内閣」を名指しこそしていないが,事実上の政権批判だ.司教団はすでに内容を法王庁に伝えており,19日から法王庁へ定期訪問する際に改めて説明するという.
日本のカトリック教会は終戦まで,他の多くの宗教と同様,戦争遂行に協力した.「日本が武器を取って立ち上がったのは,神の深い配慮に基づいている」と説いた聖職者すらいた.
その反省を踏まえ,司教団を率いる岡田武夫大司教は「状況は緊迫しており,今の政権の動きを非常に憂慮しています.私たちは,人類が歩むべき道にともしびを掲げたい.それは,すべての宗教者がなすべきことではないかと考えます」と語る.
司教団メッセージの全文は,